この解説は、海部健三・白石広美が作成したものです。2026年7月1日に公開し、その後追記と修正を加える可能性があります。追記と修正の履歴については末尾の「追記・修正の履歴」をご覧ください。また、あわせてワシントン条約第20回締約国会議におけるウナギ属魚類の掲載提案の背景について解説した動画シリーズ「ウナギとワシントン条約」もご覧ください。
YouTube動画「ウナギとワシントン条約1 ウナギ属魚類掲載提案の背景」
YouTube動画「ウナギとワシントン条約2 『ニホンウナギは増えている』という主張を検証する」
YouTube動画「ウナギとワシントン条約3 日本政府の主張を検証する」
掲載提案採択の結果
ウズベキスタンで開催された締約国会議では、11月27日の分科会Iにおいて、ウナギ属全種の附属書掲載提案(CoP20 Prop.35)について審議と採決が行われました。
審議の冒頭では、提案者であるEUから提案趣旨の説明があり、その後締約国から意見表明がなされました。賛成意見を表明したのは発言順に英国・モナコ・イスラエルの3カ国。反対意見を表明したのは同様にアメリカ・クウェート・日本・ジンバブエ・オーストラリア・フィリピン・カナダ・アラブ首長国連邦(UAE)・韓国・モーリタニア・インド・フィジー・中国・パプアニューギニアの14カ国でした。
特にジンバブエは50に上るアフリカの締約国の代表として反対を表明し、それを受けて議長は提案に反対するアフリカ諸国の長いリストが手元にあると発言しました。この瞬間、すでに大勢は決していることを分科会Iの参加者は理解し、それまで幾らか緊張感のあった会場内の空気が弛緩したように感じられました。 採決ではモナコが秘密投票を求め、規定で必要とされる10か国以上がこれに賛同しました。投票の結果、賛成35か国、反対100か国、棄権8か国となり、提案は否決されました(分科会Iにおける議論と採決の概要)
その後、12月4日の全体会合では、ウナギ全種の附属書掲載提案に関する再審議は行われず、分科会Iでの決定がそのまま維持されることとなりました(全体会合の概要)
また、ウナギについては、附属書への掲載提案とは別に、法的拘束力を持たない「決議(Resolutions)」の採択等についても議論が行われました。その結果、新たに「Resolution on Trade, Conservation, and Management of Anguillid Eel Species (Anguilla spp.)」(仮訳:ウナギ科魚類(ウナギ属魚類)の取引、保全及び管理に関する決議)が採択されました(決議のリンク)。
この決議や決定(Decisions)に基づき、締約国には決議の実施状況に関する情報を提供することが求められます。
今後の展開
ウナギ類の附属書II掲載の再提案の可能性を考えるにあたっては、今回の提案の枠組みや背景を確認しておくことが重要です。ワシントン条約では、附属書IIに掲載される種は、次のいずれかの条件に該当するものとされています(条約第2条第2項)。
① 現時点では必ずしも絶滅のおそれがあるわけではないものの、標本の取引を厳しく規制しなければ、将来的に絶滅のおそれが生じる可能性のある種
② ①の種の取引を効果的に取り締まるために、あわせて規制する必要がある種(いわゆる「類似種」)
今回提案されたウナギ類全種の附属書II掲載案では、ニホンウナギとアメリカウナギは①に該当するとされ、さらに、ニホンウナギを含むウナギ属の全種(すでに附属書に掲載されているヨーロッパウナギを除く)が、②のヨーロッパウナギの「類似種」に該当するとして、附属書IIへの掲載が提案されていました。
今後、同様の提案が再び行われる可能性を考える際には、以下を分けて考える必要があります。
・ニホンウナギの資源状態とその管理(①に関する問題)
・アメリカウナギの資源状態とその管理(①に関する問題)
・熱帯種などその他のウナギの資源状態とその管理(①に関する問題)
・ヨーロッパウナギの類似種としての扱い(②に関する問題)
ニホンウナギ
ニホンウナギについては、数が減っているという見解と、数が増えているという見解の両方が存在します。資源の状態について共通の認識がない中で、東アジアの生息国・地域は、互いに協力しながら、どのように適切な資源管理や違法漁業・取引への対策を進めていくのかが課題となります。
ニホンウナギの資源管理について、現在、中国、日本、韓国、台湾では、養殖に使うシラスウナギの池入れ量に自主的な上限を設ける取り組みが行われています。この仕組みは2014-2015年の漁期に始まり、すでに10年が経過しています。
しかし、法的な拘束力を持たない仕組みであり、実効性には限界があることも指摘されています。実際に、2024-2025年の漁期には、東アジア全体で池入れ量の上限を大きく超えた可能性があります。こうした状況を踏まえると、より実効性のある仕組みへと見直していくことが必要です。
さらに、日本には、台湾などから違法に輸出されたシラスウナギが、香港を経由して毎年大量に輸入されていると指摘されています。こうした状況を放置するのではなく、違法な取引を前提としない養殖の仕組みへと抜本的に改めていく必要があります。
アメリカウナギ
現在、アメリカウナギは世界で最も多く消費されているウナギの種であるとみられています(プレスリリース資料)。日本でも、2024年に小売店で販売されていた蒲焼を調べた結果、アメリカウナギはニホンウナギに次いで多く検出されており(プレスリリース資料)、日本でも重要な消費対象となっていることがうかがえます。
かつて東アジアでは、ヨーロッパウナギの稚魚(シラスウナギ)を大量に輸入し、養殖に利用していました。しかし、国際取引による資源への影響が懸念されたことから、2007年にワシントン条約附属書IIへの掲載が決まりました。その後、ヨーロッパウナギに代わって、アメリカウナギを養殖に利用する動きが広がり、それに伴って、養殖に必要なシラスウナギの需要も高まっています。こうした状況の中で、アメリカウナギの生息国では、IUU(違法・無報告・無規制)漁業や違法取引が問題となっています。
こうした中、ドミニカ共和国はアメリカウナギをワシントン条約附属書IIIに掲載することを通告していたものの(ドミニカ共和国による附属書III掲載を告知する文書)、12月中旬になって撤回しました(掲載提案撤回を告知する文書)。
日本では、養殖されたアメリカウナギを輸入して消費するのが一般的です。世界有数のウナギ消費国である日本の対応は、今後の国際的な議論にも大きく関わってきます。IUU漁業や違法取引を助長することなく、資源の減少につながらない形でアメリカウナギを利用していく姿勢が、これまで以上に重要となります。
熱帯種などその他のウナギ
CoP20で否決されたウナギ属全種の附属書掲載提案では、ウナギの需要が国際的に連動しており、特定の種の資源量が減少したり、漁獲や国際取引が規制されたりすることで、他種に需要が向かうこと、そして、このためウナギ属魚類は特定の種のみを保護するのではなく、ウナギ属魚類全体を保護することが重要であることが説明されています。
歴史的には、ニホンウナギの稚魚(シラスウナギ)の漁獲量の減少とともにヨーロッパウナギの需要が増加しました。その後、ワシントン条約附属書II掲載に伴うヨーロッパウナギの国際取引の規制開始やニホンウナギの不漁によって熱帯のウナギとアメリカウナギが注目されるようになりました。その後、アメリカウナギの需要が急増し、上記のように現在では、アメリカウナギが世界で最も多く消費されているウナギであると考えられています。
今後、仮にアメリカウナギの資源減少が深刻なものとなり、取引規制が導入された場合、東南アジアやアフリカに生息する熱帯種のウナギや、オーストラリアやニュージーランドに生息するウナギなど、また別の種のウナギに需要が移行する可能性を示唆しています。 このため、ニホンウナギやアメリカウナギといった、現在の主要な消費対象種だけでなく、熱帯種を含む幅広いウナギ属魚類についても、資源状態に注目する必要があります。しかしながら、特に、熱帯のウナギについては情報が限られている場合が多く、今後の調査の進展が望まれます。世界のウナギ需要の中心である、日本を含む東アジア諸国は、東南アジア諸国などと協力し、ウナギ属魚類全体の保全と持続的利用に貢献する責務を有しています。
ヨーロッパウナギの類似種としての扱いについて
ヨーロッパウナギの類似種としての提案に関しては、ヨーロッパウナギの密輸をいかに食い止めるかが大きな焦点となります。2024-2025年の漁期にも、22トンものヨーロッパウナギが押収されており、密輸は依然として深刻な問題です(ユーロポールの報告)。日本を含むウナギの養殖国や輸入・消費国には、ヨーロッパウナギの密輸の深刻さを十分に踏まえた対応と、連携した取り組みが欠かせません。
CITES CoP20のサイドイベントでは、日本は世界最大のウナギ輸入国であるにもかかわらず、ヨーロッパウナギの押収件数(報告数)が極めて少ない点も指摘されました。類似種としての附属書掲載に反対した以上、主要な輸入国である日本には、ヨーロッパウナギの規制の実効性を高めるための責任ある対応が求められます。
追記・修正の履歴
2026年7月1日:公開