ニホンウナギは絶滅するのか

ニホンウナギは、その個体数が減少していることから、絶滅危惧種に区分されています。しかしながら、ニホンウナギの個体群動態に関する研究は進んでおらず、一体どのくらい減少しているのか、その詳細は明らかにされていません。漁獲量や漁獲努力量といった基本的なデータの不足、密漁や無報告漁獲に起因する統計データの信頼性の低さ、放流ウナギと天然ウナギの混在などが、個体群動態の解析を困難にしています。

絶滅危惧種

ニホンウナギの個体数は、1970年代と比較して大きく減少していると考えられています。環境省は2013年に、国際自然保護連合(IUCN)は2014年に、それぞれ絶滅の危険性が高まっているとして、ニホンウナギを絶滅危惧ⅠB類(EN)に区分しています。


絶滅危惧IA類、絶滅危惧IB類、絶滅危惧II類を絶滅危惧種と呼ぶ。準絶滅危惧は、今は絶滅危惧ではないが、現在の状態が続くと、将来絶滅危惧になると考えられる生物。軽度懸念は現在のところ絶滅の危険はないと考えられる分類群。カテゴリーの呼び方は環境省のレッドリストに合わせている。

どのくらい減っているのか?

ニホンウナギの数がどの程度減少しているのか、詳しいことはわかっていません。これは、ニホンウナギの個体群動態に関わる研究がほとんど行われてこなかったためです。また、密漁や無報告の横行により漁業データの信頼性が低いこと、漁業に頼らない科学的なモニタリングがほとんど行われていないこと、人間によって放流されたウナギによって、天然ウナギの本当の増減が見えにくくなっていること、などの問題があり、ニホンウナギの個体群動態の把握は簡単ではありません。

限られたデータ

ニホンウナギの数はどの程度減少しているのか。知るための指標となるのが、漁獲量です。公式にまとめられている漁獲量には、養殖に用いるシラスウナギの漁獲量や、河川や湖沼で漁獲される、いわゆる「天然ウナギ」の漁獲量があります。いずれも漁業者から行政に提出された報告をまとめたものです。
 
一般的に、魚類の数を推定するときは、「単位努力量あたりの漁獲量(CPUE: Catch Per Unit of Effort)」が用いられます。漁獲量は、漁業者の増減や出漁日数などの影響を受けて変化するため、一回の出漁あたり、漁業者一人当たり、網一つあたりの漁獲量を算出し、密度の指標とします。
 
「単位努力量あたりの漁獲量(CPUE)」の算出には、漁獲量と漁獲努力量(漁業者数や出漁日数など)のデータが必要になります。しかし、ニホンウナギに関して入手可能なデータは、おもに漁獲量のみであり、漁獲努力量に関する情報が不足しています。このため、ニホンウナギが増えているのか、減っているのか、減っているとすればどの程度減少しているのか、把握することが難しいのが現状です。

農林水産省「漁業・養殖業生産統計」をもとに作成

このグラフはシラスウナギではなく、食用に供されるいわゆる「天然ウナギ」の数値です。

放流

さらに、河川や湖沼で行われているウナギの放流も、データの解析を難しくしています。地域によっては、河川や湖沼に生息しているウナギの半分程度、場合によっては大部分が放流された個体であることが報告されています。個体数を推測する際に成長速度や死亡率などの数値を利用することがありますが、産まれたときから自然の中で育ったウナギと、人間の手によってある程度の大きさまで飼育されてから放流されたウナギでは、これらの値は全く異なるはずです。

科学的モニタリングの欠如

ニホンウナギの個体群動態を把握するためには、上に挙げた問題点の解決とともに、漁業に頼らない科学的なモニタリングが不可欠です。しかしながら、現在のところニホンウナギの個体群動態を把握することを目的とした科学的なモニタリングはほとんど行われていません。今後、ニホンウナギの分布域である東アジアの沿岸域において、科学的なモニタリングを行う必要があります。

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