ウナギの放流

放流によってウナギの個体数が増加するのか、その効果は明らかにされていません。その反面、放流は病原体の拡散、成長の悪い個体の選抜など、ウナギ個体群に悪影響を与える恐れがあります。このため、放流以外の対策を優先して実行するべきです。また、ウナギの放流は環境教育の題材として適切ではありません。

放流の効果

ニホンウナギを増やすことを目的として、日本各地でウナギの放流が行われています。ウナギの放流では通常、養殖場で育てられたウナギを、川や湖に放します。

ところが、放流によってウナギが本当に増えるのか、全く分かっていません。ウナギの放流に関する研究が進んでいるヨーロッパでも、『放流による総合的な利益を評価するための知見は、限りなく弱い*1』と報告しています。ウナギの放流の効果が曖昧な理由は、放流したウナギが成長・成熟した後に、外洋の産卵場までたどりつき、再生産に寄与していることの確認が困難を極めるためです。


*1 原文には『the knowledge base for the assessment of the net-benefit of stocking is extremely weak』と表記されている(ICES 2016)。

放流の悪影響

ウナギの数を増やす効果が不明である一方で、放流が天然のウナギや生態系に対して、悪い影響を与える可能性が心配されています。放流は寄生虫やウイルスなどの病原体を広げてしまう可能性があります。また、成長の速いウナギは食用に売られ、成長が遅く、食用としての販売が難しいウナギが放流用として安く販売されるため、成長の悪いウナギばかりが放流されることになります。さらに、肉食魚であるウナギの放流が、既存の生態系に与える影響も心配されます。

ある漁業協同組合が放流用に購入したウナギの中から見つかった、脊椎に異常のある個体の一部。このような異常のある個体は食用には出回りにくく、放流用として販売されることが多い。

ウナギの放流を行うべきか

ウナギの放流がウナギを増やす効果があるのか、今のところ不明です。その一方で、放流が天然のウナギや水辺の生態系に悪影響を与える可能性が心配されています。このため、研究がもう少し進むまでは、現在以上にウナギの放流を拡大することは避けましょう。

特に、ウナギの放流を子供たちの環境学習に用いることは、避けるべきです。子供たちは良かれとやっているかもしれませんが、実際には、放流を通じて天然のウナギや河川の生態系にダメージを与えているのかもしれないのです。現在行われているものであったとしても、放流は環境学習の題材として適していません。放流の効果がわからないこと、悪影響があるかもしれないことをしっかりと伝えるか、または、別の題材を用いるべきでしょう。

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