完全養殖

ウナギを卵から人工的に育てる完全養殖の技術が確立すれば、天然のウナギを食べないですむようになり、ウナギは救われるのでしょうか。現状では、完全養殖の技術で、天然のシラスウナギの漁獲量を抑制することは困難であると考えられます。

完全養殖の現状

ニホンウナギを含むウナギの仲間全ての種類で、飼育下で産卵した卵から孵化したシラスウナギ(人工種苗)を養殖する技術は商業化されていません。

最も研究が進んでいるニホンウナギでは、2010年に水産総合研究センター(現 水産研究・教育機構)によって、人工飼育化で孵化から産卵まで、生活史を完結できるようになりました。将来、人工種苗から育てた「完全養殖ウナギ」が市場に出回る可能性が考えられます。

人工種苗は天然種苗に勝てるのか

ニホンウナギの完全養殖の成功までには、長い時間がかかりました。それは、飼育下で孵化した個体を正常に育てることにさまざまな困難があるためであり、健康な種苗を安価に生産する技術は、現在でも実現していません。このため今後、ニホンウナギ人工種苗の商業的利用が可能になったとしても、天然種苗よりも安くて元気な人工種苗が生産される日は、さらにずっと後になる可能性が考えられます。人工種苗の質が天然種苗よりも低く、値段が高いとすれば、人工種苗を喜んで選ぶ業者が現れるでしょうか。人工種苗が商業的に利用されるようになっても、その費用対効果が低ければ、養殖業者は迷わず天然種苗を選ぶはずです。ウナギの人工種苗は、天然種苗には勝てないのかもしれません。

完全養殖技術でニホンウナギを救えるのか

現在のウナギをめぐる規則に基づいて考えると、人工種苗から育ったウナギが市場に供給されたとしても、そのことによって天然種苗の漁獲量が減少する可能性はほとんどないでしょう。現在の天然種苗から育てられたウナギの供給量を100と考えて、20の人工種苗ウナギが供給されるとすると、消費量は単純に120になると推測されます。これは、現在設定されているシラスウナギの池入れ量上限が、天然種苗のみを対象とし、人工種苗シラスウナギを含まないためです。

ニホンウナギの持続的利用に近づくためには、天然種苗の利用量を減少させる必要があります。完全養殖技術がニホンウナギの持続的利用に貢献するためには、科学的データに基づいて消費上限(シラスウナギ池入れ量の上限値)を厳密に設定することが必要です。科学的なデータに基づいた池入れ量上限値を設定し、適切に運用すると、シラスウナギが不足すると想定されます。この時、現在研究が進められている人工種苗生産技術が、シラスウナギの不足を満たすという形で、社会へ大きな貢献をはたすでしょう。

人工種苗生産技術のみによって、ニホンウナギ資源の問題を解決することはできません。適切な社会のシステムと両立して初めて、人工種苗生産技術はニホンウナギの保全と持続的利用に貢献することができるのです。

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