成育場である河川や沿岸域の環境の劣化は、ニホンウナギの減少に強く影響していると疑われています。最優先して取り組むべき課題は、ダムや堰など遡上の障害への対応です。人為的な影響をなるべく取り除いた、その川本来の環境が最終的な目標になります。
生息域の環境
成長期である黄ウナギ期を過ごす沿岸域や河川の環境が大きく変化してきたことは、ニホンウナギに多大な悪影響を与えています。例えばダムや堰、落差工などの河川横断工作物は、海からの遡上を阻害するとともに、産卵回遊に向かう銀ウナギの脅威となります。
また、コンクリートなどによる護岸によって餌生物の量が減り、成長が悪くなるという報告もあります。沿岸域では、汽水域や干潟、アマモ場の重要性が注目されています。この他にヨーロッパでは、重金属やPCBなどによる水質汚染 、寄生虫 、騒音なども問題とされています。
ニホンウナギの生息場環境の例
ニホンウナギが生息する環境として、河川では縦方向のつながり、横方向のつながりが確保され、水域間の移動が妨げられていないこと、浮き石や植生等、かくれ場所が存在すること、瀬と淵等、水深に多様性があること、豊かな餌生物が存在すること、等が重要です。河川淡水域の環境とともに、成育期の初期を過ごす河口域、および沿岸域の干潟等の環境もまた、重要です。
生息域環境の回復
ニホンウナギの生息域環境の回復を考えるときには、遡上を阻害する障害物への対処を最優先するべきです。具体的に推奨される対策はダムや堰、落差工など河川横断工作物の撤去であり、それが治水や利水のためにどうしても不可能な場合は、落差の低減や魚道の設置など、次善の策を考えることになります。遡上を重要視するのは、ニホンウナギが海で生まれるためです。海で生まれたウナギが河川に侵入するとき、河川横断工作物によって遡上を阻まれれば、それより上流の水域は、いかに好適な環境であっても利用できません。このため、遡上不可能な水域で環境回復を進めても、ニホンウナギの個体群回復に対する効果は期待できません。
遡上が可能である水域において局所環境の改善を行う場合は、なるべくその河川の本来の姿に近づけることを目指しましょう。ニホンウナギは本来多様な環境を利用してきました。このため、特定の「ニホンウナギに適した環境」は存在しません。河川は上流、中流、下流でそれぞれ異なる環境を有し、河川ごとにも、異なる環境特性を持っているはずです。その地域における河川本来の環境を調べ、その姿を目標としましょう。特に重要視すべき要素としては、水際が石や土、植物などで構成されていること、瀬淵構造など水深や流速に多様性があること、川底に石がある場合は、下方に隙間のある浮石が存在することが挙げられます。そのような環境は、ニホンウナギだけでなく、水辺の生態系全体を豊かにする効果をもたらすはずです。
*1 ニホンウナギについては環境省の「ニホンウナギの生息地保全の考え方」、河川整備については、国土交通省の「多自然川づくり基本方針」に紹介されています。
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